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東京地方裁判所 平成元年(特わ)2396号 判決

主文

被告人を懲役六月に処する。

この裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、法定の除外事由がないのに、別紙一覧表記載のとおり、昭和六三年二月二三日ころから平成元年四月中旬ころまでの間、前後一八回にわたり、東京都東村山市〈住所省略〉○○店舗内ほか一か所において、乙川次郎ほか九名に対し、絶滅のおそれのある野生動植物の譲渡の規制等に関する法律及び同法施行令に規定する希少野生動物であるアジアアロワナ合計四八匹を譲り渡したものである。

(証拠の標目)〈省略〉

(法令の適用)

被告人の判示別紙一覧表一ないし一八の各所為は、いずれも絶滅のおそれのある野生動植物の譲渡の規制等に関する法律一六条一号、三条一項、同法施行令一条に該当するが、所定刑中いずれも懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い別紙一覧表一の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で、被告人を懲役六月に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予することとする。

(量刑の理由)

本件は、かねてより熱帯魚販売店を営みアジアアロワナの販売等をしてきた被告人が、絶滅のおそれのある野生動植物の譲渡の規制等に関する法律の施行に伴い昭和六二年一二月一日以降無登録のアジアアロワナの譲渡が禁止されたこと及び右禁止のなされた趣旨を、そのころ環境庁の指導を受けて十分に知悉していながら、手持ちのアジアアロワナの生魚百数十匹のうち百余匹について、昭和六三年一月下旬ころ登録申請に応じない旨環境庁からの通知を受け、さらに同年二月二日関税法上の差押処分を受けたにもかかわらず、無登録のままかつ差押処分を無視して、これを販売し利益を得ようと企て、そのうち約半数を他より入手した死魚とすり替えて隠匿し、別に隠匿していた無登録の十数匹とともに、同月二三日ころから長期間かつ多数回にわたり、無登録のまま販売して譲渡し、六〇〇万円を超える対価を取得したという事案であり、その間、被告人は、これらのアジアアロワナに関し、環境庁から譲渡、陳列をしないよう指導を受けたほか、関税法上の通告処分も受けている。

右のとおり、本件は、その犯行態様が甚だ悪質であり、その動機に格別酌むべき点がないうえ、被告人は、絶滅のおそれのある野生動植物の譲渡の規制等に関する法律による規制の趣旨内容及び本件の実質的な違法性について十分な認識を有していたもというべきであって、被告人が天然記念物である魚類を譲り受け文化財保護法違反により罰金刑に処せられた前科を有することも考え合わせると、その刑責を軽視することはできない。

そこで、本件については、懲役刑を選択し、被告人が現在反省していること、禁錮以上の刑に処せられた前科がないこと、その他家庭状況等、被告人に有利に斟酌すべき事情もあることを考慮して、その執行を猶予することとした。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 岡部信也)

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